わが子には幸せをつかんでほしい、そう願わない親はいないはずです。AIの台頭、国際情勢の変化で先行き不透明な未来のニッポンをたくましく生き抜くには、今まで以上に卓越した知力が必要となってきます。
この記事で紹介する図鑑は、これまでのスタンダードにとらわれない、知力あふれる子供を育てる強力なツールになること請け合いです。
目次
1.図鑑は賢い子供を育てる
1.1.図鑑は知的好奇心を刺激する
東北大学脳科学センターの瀧靖之教授が子育て雑誌の企画で東大生174人に対して行ったアンケート(※1)によると、子供の頃、図鑑が身近にあったと答えた学生が87%にも上ったそうです。
親御さんがどのような意図で図鑑を購入したかはさておき、「図鑑があった」と答えたからには、東大生たちはかつて興味を持ってその分厚い表紙を開いたはずです。
彼らの目に飛び込んできた昆虫・動物、あるいは季節の美しい花々のカラー写真や挿絵が彼らの知的好奇心を刺激したことになります。そして無我夢中で、次々と現れる見知らぬ動植物に心を奪われながら、ページをめくっていったことでしょう。
読み聞かせの絵本と違い、子供たちが初めて出会う「能動的に読み進めていく可能性の高い書物」、それが図鑑というわけなのです。
(※1出典:瀧靖之『16万人の脳画像を見てきた脳医学者が教える究極の子育て 『賢い子』は図鑑で育てる』, 講談社, 2018.)
1.2.子供の「賢さ」の発達
脳細胞の数は誕生時が最高で、年齢とともに数を減じていきます。思考や感情が後になって発達してくるのは、神経細胞同士をつなぐネットワークが構築されていくからなのです。
つまり、赤ちゃんがオギャー!と生まれた時点の脳をコンピューターに例えると、アプリやソフトは何もインストールされていません。それどころか、設定すら白紙の状態なのです。
そして、誕生後に受けた五感からの刺激によって神経細胞同士のネットワークができていく──これが脳神経が発達する大まかな仕組みです。
ところがこの発達、いつまでも続くわけではありません。
下図は医療従事者、教育関係者にはおなじみのスキャモンの成長曲線ですが、脳神経系は就学前までに急激に発達し、せいぜい8~10歳でほぼ成長を終えてしまいます。
海外生まれの帰国子女がなんら苦もなく母国語以外の言語を身に付けられるのに対し、大人が実用に足る英会話を身に付けるのが至難の業なのはこのためです。つまり脳を鍛えるのでしたら小学校の低学年までが最適、ということがいえます。
1.3.図鑑が子供の脳にもたらす効果
1.3.1.能動的に知識を吸収する意欲が身に付く
分かりやすく言い換えれば、勉強好きの子供になるのです。決して大げさではありません。
カブトムシやクワガタは、わたくしのような昭和の男の子が大好きなものの定番でした。
手付かずの自然が少なくなった今でも、新幹線が好き・自動車が好き・はたまた仮面ライダーやプリキュアといった具合に、お子さんには必ず何か1つくらいは「好き」があるはずです。
もしもその「好き」が分厚い図鑑に大量に載っていたらどうでしょう。美しい金属光沢を放つ甲虫、奇妙な姿をした深海の生き物に目を奪われながら、世の中の奥深さを知るガイドブックとして認識するはずです。
仮にポケモン図鑑であろうとも全く問題ありません。「好き」という衝動は、脳の扁桃体という梅干し大の組織がつかさどっているのですが、ここに接続するA10という神経(別名、快感神経)が快楽をもたらす脳内物質(ドーパミン)を分泌することで、さらに知的探究心が刺激されていきます。
このドーパミンは神経細胞のネットワークを構築するのに活躍しますので、脳機能の全般的な発育をも促すことになります。
ロールプレイングゲームもシナリオに沿って物語が進行しますが、映像と音声が受動的に流れ込んでくる、いわば脳が楽をしている状態です。
一方、図鑑を含む読書は、エネルギーを使ってこちらから積極的に情報を取りに行かねばならないので、おのずから思考能力が鍛えられていくことになります。
さらには知識を得た達成感も、脳の発達に大きく寄与します。だから、入り口はプリキュアや仮面ライダーの図鑑でもいいのです。
1.3.2.記憶力、思考力の向上
先の図のとおりA10神経は、記憶をつかさどる海馬、情動や複雑な思考をつかさどる前頭葉・前頭前野にも接続していますから、この神経が活躍することで双方の発育・発達が活発になります。
国旗を一目見ただけでどこの国の旗なのかをズバリ言い当てるお子さんがいらっしゃいます。それは「好き」がもたらす記憶力向上の結果というわけです。
また、感動を伴う記憶は忘れにくいといわれています。
一例を挙げます。図鑑ではモンシロチョウの一生が卵から幼虫を経てサナギ、そして羽化して成虫になる様が詳しく解説されています。
これを十分理解したお子さんが、あるときふと空を見上げたらモンシロチョウが飛んでいる。追いかけていくと、キャベツ畑で産卵行動を始めた。その様子を目の当たりにして、お子さんは知識を実際に追随してさらに感動する──知的好奇心は行動にも好影響を与えるのです。
数学者の秋山仁氏が「賢い子供に育てたかったら塾に行かせるより野山で自由に遊ばせた方がいい」と主張するのはこのためです。
つまり、図鑑を読んで知識を蓄え⇒思考実験を行い⇒それを実際に確かめ⇒感動と喜びをもって知識探求欲が増すという、1種のPDCAサイクル(※2)に図鑑が大切な役割を果たすのです。
(※2 PDCAサイクルとは)
PDCAサイクルは、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)の頭文字を取ったもので、1950年代、品質管理の父といわれるW・エドワーズ・デミングが提唱したフレームワークです。
野村総合研究所>用語解説 より引用
1.3.3.言語能力の向上、知識の集積
図鑑に収められている知識量は膨大です。それを興味を持って読み解いていくのですから、お子さんはいつのまにか虫博士や恐竜博士になっていきます。これは当然と言えば当然。好きこそものの上手なれというわけです。
後述しますが、お子さんに買い与える図鑑はちょっと背伸びしたレベルのものをチョイスするとよいと考えます。
背伸びしたレベルのものだと、難しい専門用語に遭遇することもあるでしょう。生物の図鑑だとカタカナ表記が多いでしょうから、平仮名より先にカタカナを覚えてしまうかもしれません。
わたしは図鑑でかなりの数の漢字(読みだけですけど)を覚えました。図鑑に書かれた世の中の不思議を読み解くうちに、語彙も増えていきます。
漢字や言葉の意味、あるいは動植物の体の構造など、学校で習う以前から理解していると、それが喜びとなって神経細胞のネットワークがより高度に発達していくことにつながります。
2.どのような図鑑を選ぶべきか
2.1.子供に好きなものを選ばせましょう
絶対にハズしてはならないのは、お子さんが興味を持ったジャンルのものを選ぶということ。最初はポケモン図鑑であっても、まずは能動的に書物を読み進める意欲を開発することが大切です。
断じて親の押しつけであってはいけません。「医者にしたいから」と人体の図鑑を選んだりするのはもっての外です。
考えてもみてください。ご自分が好きでもない習い事や塾に無理やり行かせられるとしたら……もう、お分かりですよね。
お子さんを医者にしたいと考えて人体の図鑑を買い与えても、肝心のお子さんが興味を示さなければ、お金をドブに捨てることになります。
2.2.ちょっと背伸びをしたレベルの図鑑を選ぶ
確かに3~4歳くらいでまだ言語能力が発達していない段階では、初歩的な、いわゆる幼児向けの図鑑を選んだ方がいいでしょう。
ですが就学直前くらいからは、ある程度の密度を盛り込んだ本格的な(といっても小学生向けの)図鑑を選ぶのが無難だと思います。
用語も難しいかもしれませんが、最初は絵や写真に心を奪われますから、説明はあまり考慮しなくて良いでしょう。
自分の経験ですが、わたしの家にはスタンダードな小学館の昆虫図鑑があり、最初のうちはワクワクしていたのですが、すぐに飽きてしまいました。
ところが従兄弟の家には、より分厚く、より高度な内容で装丁も立派な図鑑がありました。
海外の珍しい甲虫──ゴホンツノカブトムシや、メタリック塗装を施したようなニジイロクワガタに目を奪われ、従兄弟との遊びはそっちのけで図鑑にかじりついておりました。とにかく図鑑は情報量が豊富であればあるほど良いと考えています。
また、大人が子供に読み聞かせる突っ込んだ内容が巻末や欄外に小さな文字で書かれているものですが、それすら年齢が進むにつれて読み解くようになっていきます。
おかげで私は小学1年生にして「ヤナギムシカレイは干物にしたらうまい」「食品添加物の赤い天然色素はルビーロウムシという昆虫から抽出されたもの」といった、大人顔負けの知識を身に付けました。
高学年になったときには、専門家でもなかなか難しいホタルの飼育方法や、昆虫の完全変態がある種のホルモンによってコントロールされていることなどを記憶に刻み込んだのでした。
このように、図鑑は長い期間に渡ってボロボロになるまで繰り返し繰り返し読み込むものなのです。
2.3.セットで買いそろえるべきか、百科事典の方がいいのか
前述のとおり、お子さんに好きなジャンルを選ばせるのが鉄則ですから、最初から興味が薄いジャンルを含めたセットで買いそろえなくても良いと思います。
もちろん、お子さんやお孫さんの興味が多岐にわたり、予算にも余裕があるのでしたらこの限りではありません。最初は昆虫や乗り物の図鑑であっても、ひとたび探究心に火が付いたお子さんなら、次々と買い足していくのが得策かと存じます。
ちなみにわたしは小学館の学習図鑑シリーズを昆虫を皮切りに、魚介・動物・植物・鳥・気象と天文・人体と保健の順に買い足していきましたが、やはり興味は自然科学へ偏っておりました。
逆に、母親が半ば押し付け気味に買ってきた社会科の図鑑には見向きもしませんでした。
白状しますと、わたしは辞書を読むのが好きな子供でした。小学3年生の頃、学校から帰ってくるなり、母親が使っていた広辞苑にランドセルを背負ったまま見入っていたものです。
そんなタイプのお子さんには、百科事典的なものをチョイスすべきでしょうね。実際わたしも広辞苑に飽き足らず、その年のクリスマスはサンタに子供百科事典をお願いしたのでした。
また、お子さん・お孫さんの興味の方向性がはっきりしない場合、それを探る試金石として百科事典を購入するのはよい選択だと考えます。
2.4.電子書籍か紙本(しほん)か
わたくしも最近は、購入する書籍はもっぱら電子版になりました。子ども向けの図鑑にも電子版が数多く出版されています。
だけど紙の本も捨てがたいんですよ。
と申しますか、むしろ“紙”の図鑑をお勧めします。
もちろん、ご自宅に書棚やスペースがない、早いうちから電子書籍を含めた端末の取り扱いを習熟させたいという向きには反対いたしませんが。
電子書籍の利点を理解しつつ、子供さんには紙の図鑑をお勧めする理由を述べます。
紙本の最大の利点は、「パラパラ見る」「ちょっと見る」が簡単であることです。
夏休みのある日、わたしは近くの草むらでカマキリとコオロギを捕まえて家に連れ帰りました。
虫かごの中を所狭しと動き回る二匹の昆虫。彼らの素性を知りたくなったわたしは、紙の図鑑のコオロギとカマキリのページに指を挟んで、交互に見比べたものです。
実際にそれはハラビロカマキリとミツカドコオロギというややレアな昆虫だったのですが、新たな感動が積み上げられたのは言うまでもありません。
これが電子書籍だったらどうでしょう。スマホもそうですが、片手ではなかなか操作しづらい上、ページ間をジャンプするのもちょっと面倒ではありませんか?
「なあに、ブックマークしておけばいいじゃん」と仰せのあなた。もしもコオロギだと見当を付けた昆虫がゴキブリである可能性が浮上したとしたらどうします?ブックマークを外して、新たにゴキブリのページを探さねばなりません。
このように紙の本の長所はパラパラめくったり、何ページも飛ばしたり後戻りしたりが容易なこと──これが大切なんです。
電子版だと「どこに載っていたかな~」とパラパラめくることができません。
もし電子書籍をお選びになるのでしたら、可能な限り大きな画面の端末をお勧めいたします。
昆虫や海の無脊椎動物といった小さな生命も、より大きい画面で見たほうがリアルで記憶に与えるインパクトは大きいはず。それほど昆虫や無脊椎動物は、生物のデザインとして多彩で美しいのです。
3.目的別おすすめ図鑑
それでは、ここから目的別におすすめの図鑑を紹介していきましょう。
3.1.就学前のお子さん向け、初歩の図鑑
3.1.1.はっけんずかんシリーズ
学研プラス
¥2,178+税
<ラインナップ>
せかいの図鑑/深海の生き物/きかいのしくみ図鑑/うみ 改訂版/むし 新版/きょうりゅう 新版/のりもの 改訂版/たべもの/どうぶつ 改訂版/でんしゃ・しんかんせん/しょくぶつ
就学前~小学校低学年向けです。ほぼ全編が平仮名でつづられています。
文章よりも挿絵・写真の掲載量が圧倒的に多いので、語彙の少ないお子さんでも受け入れられやすいでしょう。絵本の延長線上にある書物です。
『うみ』『たべもの』では分野のカテゴリーを横断したり、または乗り物でも『でんしゃ・しんかんせん』のように分野を掘り下げたりと、お子さんの多彩な興味に寄り添う作りとなっています。
また、挿絵には仕掛けもふんだんに盛り込まれていて、最初に手にする図鑑としてはなかなか優秀です。
逆説的には、お子さんが成長してからも長く読まれる図鑑、多くを網羅する図鑑ではありません。この点はご留意ください。
3.1.2.小学館の子ども図鑑 プレNEOシリーズ
小学館
¥2,800+税
<ラインナップ>
せかいの図鑑/にっぽんの図鑑/よのなかの図鑑/くふうの図鑑/げんきの図鑑/ふしぎの図鑑/せいかつの図鑑/こくごの図鑑/かず・かたちの図鑑/きせつの図鑑
同社の子ども図鑑「NEOシリーズ」(後述)より低年齢を対象としています。平仮名表記に大人が読み聞かせる詳細な注釈が併記されています。
算数は『かず・かたちの図鑑』、人体・医学は『げんきの図鑑』といったタイトル付けのように、各分野の“取り付き”を意識した構成になっています。
国語や算数・地理・家庭科といった自然科学系以外の分野にも、豊富なラインナップがそろっています。
例えば『かず・かたちの図鑑』では、自然界に存在するシンメトリックな図形で興味をそそったり、迷路やクイズで考える力を刺激したりします。
また、昆虫や動物といった自然科学を扱う図鑑が多い中、『よのなかの図鑑』『にっぽんの図鑑』のように、社会科学的な分野もラインナップされているのが大きな特徴です。文系寄りのお子さん(まだ方向性は分からないかもしれませんが)にぜひどうぞ。
3.1.3.ふしぎがわかるよ!図鑑(学研の図鑑 for Kids)
監修 横山洋子
学研
¥2,750+税
せいかつ、たべもの、からだ、しぜん、いきもの、のりものの各分野で、お子さんの興味を引きそうな疑問──例えば「つぎのひのカレーはなぜおいしいの?」「どうしておへそはあるの?」「みんなでたべると なぜごはんはおいしいの?」のような日々の疑問を、一問一答形式で分かりやすく解説しています。
「図鑑」というよりは「こども百科」的な作りです。
分野も医学、自然科学から社会科学、家庭科を広く網羅していますので、お子さんの興味が文系・理系どちらにあるのかを知るアンテナ的にも使えそうです。
また、就学前~小学校低学年を意識した文章表記ですから、お子さんの成長に合わせて、より高度でより豊富な知識を詰め込んだ図鑑選びの一助になるはずです。
3.2.興味を幅広く網羅した百科事典的な図鑑
3.2.1.なんでも!いっぱい!こども大図鑑
編集責任 ジュリー・フェリス 日本語版監修 米村でんじろう
河出書房新社
¥5,390+税
小学校低学年~高学年向けです。
大型本で内容・文章ともにやや高度ですが、百科事典のように長い期間にわたって読むには適していると思います。
医学1つとっても、遺伝学や組織学といった大学レベルで学ぶ内容も盛り込まれていますが、けっして読みにくくはありません。
就学して間もないお子さんでも最初はビジュアルだけでも楽しめますし、学年が進むにつれて詳しく書かれた説明にもきっと目に留まるはず。
また、自然科学だけではなく、くらしや経済・歴史・文化芸術を広く網羅して、その中からお子さんの興味を引きそうな内容が掲載されています。
価格設定が高めですが、それに釣り合う内容の詰まったお勧めの1冊です。
3.2.2.キッズペディア こども大百科 大図解(小学館キッズペディア)
小さな子供が、大人が目を離した隙におもちゃを壊したりラジオから電池を取り出したりしてしまうのは、中身がどうなっているのかを知りたい本能的欲求からです。
それに見事に応えた、まさに万物の解剖図ともいえる異色の図鑑ですが、個人的にはかなりお勧めの1冊です。人体・生物や機械だけではなく、新国立競技場や歌舞伎座のような建築物にまで記述が及んでいます。
3DプリンターやLEDを駆使した「これから」の技術もふんだんに盛り込まれているのにも好感が持てます。
文字がやや小さく、内容もかなり突っ込んだものになっておりますので、就学後のお子さんにお勧めします。
3.2.3.キッズペディア 科学館
小学館
監修 日本科学未来館/筑波大学附属小学校理科部
¥3,600+税
<他のラインナップ>
スポーツびっくり図鑑/歴史館: 日本史の大事件 そのとき世界は/マークの図鑑/こども大百科 もっと大図解/世界の国ぐに/地球館:生命の星のひみつ/日本と世界の祭り/航空機のひみつ/世界遺産/世界の国ぐにクイズブック/こども大百科 大図解クイズブック/こども大百科 キッズペディアスペシャル 世界の生き物大図解: スーパーネイチャー日本語版/小学館こども大百科クイズブック/こども大百科 大図解
『こども大百科 もっと大図解』は『こども大百科 大図解』の第2弾で、メカニカルな解剖が主体となっています。鉄道や航空機、自動車に興味のあるお子さんにお勧めです。
大型本ですが比較的文字が大きく、文章量も少なめです。前述の『こども百科 もっと大図解』とは姉妹関係にあります。
生命を科学する、宇宙と地球を科学する、身の回りのふしぎを科学する、光と音を科学する、磁石と電気を科学するといった本来の図鑑としての記述はもちろん、「月の形が変わるのはなぜ?」「オスとメスがあるのはなぜ?」といった素朴にしてなかなか答えづらい疑問に一問一答形式でズバリと斬り込んでいるところに好感が持てます。
工業用3DプリンターやIPS細胞なども網羅する、自然科学はもちろん科学技術にも寄せた内容となっています。お子さんが理科好きなら、かなりお勧めの1冊です。
3.3.実験や工作を通して楽しく学ぶ図鑑
3.3.1.科学っておもしろい!なぜ?なに?なんで?わくわくサイエンス
総監修 米村でんじろう(サイエンスプロデューサー)
日東書院
¥3,200+税
『生き物』(動物・植物)『体』『地球・宇宙』『身のまわり』(生活・命・心)の4つのジャンルから、子供たちの身近な科学の疑問を取り上げ、解き明かします!
例えばですが解剖学や生理学を学んだわたしでも、「かき氷を食べると頭がキーンと痛くなるのはなぜ?」という素朴な問いには、遠い学生の頃の記憶を掘り起こさねばなりません。
古い記憶からようやくひねり出した答えは「神経の過誤支配と低温反射」……ね、難しいでしょ?
これを実に分かりやすく解説しているのが本書です。ホタルが光る仕組み、カニやエビをゆでると赤くなるのはなぜ?など、大人でも興味深く読めます。
驚いたのが「人は死んだらどうなるの?」という問いかけへの回答──白状しますが、わたし、泣きました。もう涙が止まらないほどに。答えが知りたい方は、ぜひともご購入ください。
図鑑というよりは「チコちゃん」系の本なのですが、わたしはお勧めしますね。版元がもくろんだように(?)必ずしも理科好きの子にはならない気がしますが、科学を超えた豊かな情緒を育むお勧めの1冊です。
3.3.2.かがくあそび(フレーベル館の図鑑ナチュラ ふしぎをためす図鑑)
監修 高柳雄一
指導 山村紳一郎
フレーベル館
¥2,090+税
ご家庭で手軽にできる実験を通して科学を学ぶ図鑑です。小学校中学年~高学年くらいが対象。簡単な工作が必要ですので、物を作るのが好きなお子さんに喜ばれるでしょう。
工作といっても鏡や虫眼鏡、アルミホイルなど、どこのご家庭にもある身近な素材を使っていますので、親御さんと一緒に楽しみながら科学を学べると思います。
でんじろう先生の実験図鑑よりは、より身近で理科の勉強にも役立ちそうです。
化学電池の原理や正弦波を視覚化するなど、かなり高度な内容となっていますが、そこを楽しみながら学べるのがこの図鑑のいいところです。物理化学が得意なパパ・ママも夢中になりそうな予感。
3.4.絶対にハズせない定番の図鑑
3.4.1.「大自然のふしぎ」シリーズ
<ラインナップ>
植物の生態図鑑 動物の生態図鑑、など
著 多田多恵子
絵 田中 肇
¥3,000+税
学研教育出版
同社の図鑑は小学館、ポプラ社と並んで、定番中の定番。大型本です。
多くの種類を網羅するのではなく、生き物の暮らしや成長に視点を置いています。
最初はとっつきにくいのですが、繰り返し読むようになることうけあいです。お子さんの成長を通じて長く読まれることでしょう。
カブトムシやクワガタの幼虫時代の姿や、アブラゼミは生涯のうち7年も土の中で過ごすなど、情報量が多いのもお勧めポイントの1つです。
実際の生き物を見て触れる機会のある幼少期なら、よりインパクトも大きいのではないでしょうか。
他のラインナップは『魚貝の生態図鑑』『昆虫の生態図鑑』。“生態”に切り込んだ編纂(へんさん)が、従来の定番図鑑にはない美点の1つです。
※現在は在庫切れでAmazonでも中古品しか入手できません。図書館で見かけたらぜひ手に取ってご覧ください。
3.4.2.小学館の子ども図鑑 NEOシリーズ
前述の「子ども図鑑プレNEOシリーズ」のお兄さん、お姉さん版といえるシリーズです。
当然のことながら「プレ」シリーズより内容量・情報量ともかなり多くなっています。わたくし個人としてましては、最初からこちらをプレゼントしてもいいかなと思います。
小学館は他社に先駆けて子供向けの図鑑を出版してきましたが、そのリアル定番図鑑の系譜を受け継ぐシリーズです。
ラインナップは、以前からある『昆虫』『動物』『植物』『鳥』 『水の生物』『星と星座』『大むかしの生物』といった定番がそろっています。
それに加えて『人間・いのちの歴史』といった、深く、そしてこれからの世を生き抜くお子さんにはぜひとも読んでほしいテーマ(大げさではなく)もあり、さすがは図鑑の老舗だと感心しています。
セット販売もありますが、まずはお子さんが好きそうな1冊をチョイスして、順次買い足していくことをお勧めいたします。
公式サイト・NEO全巻ラインナップ
3.4.3.ポプラディア大図鑑 WONDA(ワンダ)大昔の生きもの
<他のラインナップ>
昆虫/動物/星と星座/植物/鉄道/魚/恐竜/水の生きもの/鳥/宇宙/両生類・爬虫類/人体/自動車・船・飛行機/地球/イヌ・ネコ
¥2,000+税
監修/代表 小林快次
ポプラ社
こちらもセットで買うより、まず興味のあるジャンルから買い求めてください。
数あるラインナップの中でも特にお勧めなのが、『大昔の生きもの』です。
すべての生き物はたった1つの単細胞生物から多様に分かれ、絶滅を免れて進化してきたと知ることで、生き物への深い愛情と地球環境への優しい心が育まれることでしょう。
先カンブリア期~新生代の40億年を網羅しています。
生物系の理系パパ・ママなら、翼竜、魚竜、首長竜は恐竜ではないことはご存じでしょう。鳥が恐竜の生き残りであること、クジラがどのようにして海洋に進出していったかなど、お子さんはもちろん、大人にも長く愛読されることと思います。
もちろん他のラインナップも、定番図鑑のベンチマークといえる充実の内容です。
3.5.ビジュアルセンスを刺激する図鑑
3.5.1.グレートネイチャー 生きものの不思議 大図鑑
とにかく目を引くのが精細で鮮やかな写真たちです。カマキリが獲物を捕らえる一瞬、キノコの地下構造などが詳しく、しかも写真で掲載されているのがスゴイ!しかも、その量には圧倒されます。
金属光沢を放つハチドリ、果汁があふれだすトマトの断面などは、ハッと息をのむほどです。たとえ文章が理解できないお子さんでも、次々とページをめくりたくなるのではないでしょうか。
ニューヨークのスミソニアン博物館の運営母体が監修しただけあって、ページをめくっていくだけで、まるで上野の自然科学博物館をめぐっているようです。
例えば「卵」「子育て」「泳ぎ方」といった”種”を超えたテーマでまとめてあり、図鑑というよりは多方面から生き物の不思議に迫る、博物学の趣がある書物に仕上がっています。個人的にはかなりお勧めの1冊です。
特に、古代ギリシャの船から突き出た無数のオールのようなムカデの足なんかは必見です。
虫嫌いの親御さんが卒倒しそうな画像でも、お子さんはたぶん大丈夫ですよ。なぜなら、まだ本物を知らないから(笑)。
3.5.2.ボタニカム ようこそ、植物の博物館へ/アニマリウム ようこそ、動物の博物館へ
絵 ケイティ・スコット
著 キャシー・ウィリス(ボタニカム)/ジェニー・ブルーム(アニマリウム)
日本語版監修・翻訳 多田多恵子(ボタニカム)/今泉忠明(アニマリウム)
汐文社
¥3,200+税
ボタニカムは微小な藻類から樹高80メートルの世界一の巨木まで、植物界をあまねく探検できる博物館。植物の分類や進化の歴史、生物多様性、成り立ちまでやさしく説明した、英国キューガーデン公式監修の画集のような美しい絵本です。
アニマリウムも同様で、分かりやすいながらもアカデミックな内容です。
大型本の中でもとりわけ大きな部類です。図鑑というよりは博物誌といった印象を受けます。最初はムック本のようにビジュアルを楽しんでください。
見開きにすると、鮮やかな図が右ページに、説明文が左ページに配置してあります。
お子さんにはちょっと難しいように思えますが、生物学用語が散りばめられていても文章そのものは平易ですし、ルビもふってあります。年長さん~小学校低学年くらいのお子さんでも十分楽しめると思います。
最初はぜひとも、読み聞かせのように楽しんでください。〇〇億年とか40mはどれくらい?といった質問が出たときには答えてあげてくださいね。
大人が見たら気味が悪いと思われるような藻類や菌類も網羅してあります。例えば「ハイエナはずる賢い」とか「ヘビはどれもみな危険だ」とかは、成長過程で刷り込まれた既成概念に過ぎません。
なんでも見聞きする無垢な好奇心を大切にしましょう。
3.5.3.理科が楽しくなる大自然のふしぎ 岩石・宝石ビジュアル図鑑
監修 産業技術総合研究所 地質標本館
学研
¥6,000+税
美術に秀でた子に育てるには幼いうちから美しいものを見せよ、といいます。
美しい鉱物、宝石ばかりを集めたいっぷう変わった図鑑ですが、繰り返し鉱物の成り立ちを読み、理解が進むうちに地球物理学──プリュームテクトニクスの考え方が身に付いてきます。
「ダイヤモンドができるには地球の奥深くから音速に近いスピードでマグマが噴き出す必要がある」「真珠や琥珀のように生き物が作り出す宝石もある」など、興味は尽きないはずです。
まずは美しい鉱物、宝石の数々を眺めているだけでもよいでしょう。お子さんはダイヤモンドよりもトパーズ、トルマリンといったカラーストーンに目を奪われること間違いありません。
<他のラインナップ>
理科が楽しくなる大自然のふしぎ 絶景ビジュアル図鑑
3.5.4.世界食べものマップ
絵と文 ジュリア・マレルバ&フェーベ・シッラーニ
翻訳 中島知子、赤塚きょう子
監修 辻調グループ辻静雄料理教育研究所
河出書房新社
¥2,400+税
超大型本。
とにかく見ていて楽しくなります。まるで『ウォーリーをさがせ!』を読んでいるかのようです。
世界一臭い食べ物として有名なニシンの塩漬け「シュール・ストレーミング」や巨大な芋虫「ウィチェッティグラブ(マイマイ蛾の幼虫)」など、日本人にとっての”ゲテモノ食”も当然のように網羅されています。
もちろん、日本食では外国人が苦手とされる納豆も刺身もきちんと網羅されています。お料理好きのファミリーには特にお勧めです。
普段から口にしているポピュラーな食材、例えばカボチャのルーツが意外な国であることを知れば驚きますよね。知らず知らずのうちに、食べ物・作物を通して世界地理に詳しくなれます。
そして人類がタンパク源として蛾(成虫、幼虫)を食べてきたことは、新鮮な驚きを持って迎えられることでしょう。
3.6.Kindle版ならこれを買うべし!
置き場所や持ち運びの点で、電子版の図鑑も充実してきています。前述したように紙本に比べて検索しづらいというデメリットはありますが、メリットもあります。
何より、場所を取りません。小さめの端末なら外へ持ち出すこともできますし、図鑑をまとめて1つに収められるのはやはり便利ですね。
電子版ならではのAR(拡張現実)を駆使した学びができるのも魅力的です。
3.6.1.学研の図鑑LIVE(ライブ)ポケット
学研プラス
¥898~998+税
<ラインナップ>
昆虫/動物/植物/幼虫/危険・有毒生物/鳥/恐竜/魚/星・星座/カブトムシ・クワガタムシ/絶滅危機動物/岩石・鉱物・化石/昆虫採集/水の生き物/鉄道・乗りもの
紙版と内容はほぼ同じです。写真が豊富で、難しい用語や地球温暖化・侵略的外来生物といった時事問題にもページを割いて解説しています。
裏を返せば、それだけ読み解く力が必要ということです。端末を自在に操れるお子さん向けです。
大人にも読んでほしい内容もかなり含まれています。紙本推しのわたくしですが、その点では家族全員でタブレット端末で楽しむのもアリかな、と考えを改めさせられました。
3.6.2.講談社の動く図鑑MOVE mini(ムーブミニ)
講談社
¥880+税
<ラインナップ>
恐竜/昆虫/動物/危険生物/星と星座
こちらも電子版のメリットを生かした構成になっています。 ページに表示されるQRコードを読み取れば、スマホが短いムービー付きのデジタル図鑑に早変わり。
上記の学研の図鑑と同様、端末を自在に扱える、やや年長のお子さん向きです。
3.6.2.KindleFireキッズモデル
電子書籍をお子さんにという親御さんならば、端末を同時に購入することもお考えになるのではないでしょうか。
代表的なKindleアプリを使えばPC、スマホ、タブレット(Android、iOS)で閲覧が可能ですが、お子さん・お孫さん専用の端末としてはKindleFireキッズモデルが人気です。
1,000冊以上の子供向けの本が1年間読み放題の特典付きなのが嬉しいですね!図鑑だけでなく児童書もどんどん読んでほしいものです。ピンク・ブルー・パープルが選べます。
¥19,980
4.子供の図鑑選びは難しいけど楽しい!
この記事を書いているのは令和元年末ですが、この5年くらいの間に全国の書店数は半減しました。
ジュンク堂や紀伊國屋書店のような大規模書店ならば今後もなんとか存続してくれるのでしょうが、それだけ書店へ赴き、図鑑をじかに手に取って中身を確かめてから購入するという、かつてなら至極当たり前の購入が難しくなってきたことになります。
となるとインターネット通販を利用することになりますが、お子さんだって、やはり事前に内容は確かめたいですよね。
大きな駅の近くでは、まだまだ元気な本屋さんが頑張っています!少子化もあって品ぞろえは完璧ではないかもしれませんが、お子さん・お孫さんと一緒にあちこちの本屋さんを巡って図鑑を探すのも、また好奇心を駆り立てることに役立つことでしょう。
児童書に特化しているというわけでもないのですが、ゆったり気分で本を選べるカフェ併設の「代官山蔦屋書店」
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で、ご家族みんなで書物選びを楽しまれてはいかがでしょうか。
変わったところでは、本と一緒に珍しい昆虫標本や剥製、探索グッズも展示した世田谷の「好奇心の森 DARWIN ROOM(ダーウィンルーム)」(※2020/01/10時点でサーバーダウンしています)
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は、生きもの好きのお子さんには最高の書店ではないでしょうか。
インターネット検索もいいですが、やはり子供の図鑑は紙本。それもお子さんが実際に手に取って決める。これがわたくしの結論です。
お気に入りの1冊から、楽しい学びの世界が広がりますように!